テーマパークではハッピーバースデーの価値が下落する
ファミリーレストランで夕食をとっていると、たまに子どもの誕生会を催している家族連れを見かける。
店内のBGMがハッピーバースデー仕様のものに変り、店員さんが2名ほど該当のテーブルへ赴いてみんなでハッピーバースデートゥーユーを唄う。周囲にいる私たちも場合によっては手拍子や拍手をしてその場を盛り上げることがある。
その瞬間だけ、そのファミリーレストラン全体がなんとなく祝福ムードに包まれる。
ちょっといいレストランでもそういった現場に出くわすことがある。これはファミリーレストランのものよりもう少し、店全体の雰囲気が親しげになる。現場に居合わせただけの見知らぬ人の『おめでとう!』という言葉が飛び交うことすらあった。だいたいの人が該当のテーブルを見て笑顔で拍手をしている。幸せな祝福ムードである。
『誕生日』というイベントは、その他のイベントに較べて他人も気軽に祝いやすく、当人にとっては重要度の高い、コスパのよいイベントだ。
ところで先日、友人と千葉県にある夢の国へ2日連続で行く機会があった。
1日目はシーで過ごし、2日目にランドへ……というスケジュールで、それ自体はとても楽しくてよかった。
1日目の夜、私たちは園内のホテルにあるレストランで夕食をとった。その日は日曜日だったこともあり、レストランは大変混みあっていた。
友人とご飯を食べていると、レストランの店員さんが二名隣のテーブルに近づき、おもむろに誕生日のお祝いが始まった。
ハッピーバースデートゥーユー
ハッピーバースデートゥーユー
いつものくせで手拍子でもした方がいいのかと考えた瞬間、周囲の様子がいつもと違うことに気づく。
誰もその席に注目していないのだ。ハッピーバースデーは該当のテーブルでのみ祝われて、その他のテーブルには伝染していない。
夢の国なのに?なぜ? そう考える間もなく理由に気づいた。
ひとつのテーブルでハッピーバースデーが終わると、すぐに別のテーブルでハッピーバースデーが始まった。ほぼ同時多発ハッピーバースデーだった。
確かに考えてもみれば、誕生日をテーマパークで過ごそうとする家族、カップル、友人の集まりは多いだろう。その他のファミレスやレストランではだいたいが1組か2組であることを考えると、テーマパークのレストランは局地的にハッピーバースデーが集まっている。
その結果、当の本人たち以外、ハッピーバースデーの価値が急速に下落するのだ。
私たちは美味しいねとご飯を食べながら、次から次へと巻き起こるハッピーバースデーを眺めていた。そうして5組ほどが過ぎると、ハッピーバースデーが日常に溶けてゆく。
「こっちの方が周りに気を使わなくていいかもね」
とは友達の言葉であるが、つまりそういうことなので、ハッピーバースデーの価値が下落するテーマパークで誕生日を過ごすことは正解なのである。