厳密に言うとソフトクリームも食べた
久しぶりにドタキャンをくらった。
元来、友人は約束をとてもよく守るタイプである。今日は友人の仕事が13時定時で終わるため、それから遊ぶ約束をしていた。
ただ友人の仕事は基本的に定時では終わらない。「まだ終わらない」そんな連絡が来たのは14時半頃。おつかれさまとだけ返信すると、10分ほどして終わったと連絡が来た。
私の住んでいる地域は車移動が基本であり、今日は友人が迎えに来てくれる予定。今から行くねというメッセージの更に10分後、悲しい連絡が届く。
「速度違反で捕まった」
かける言葉も見つからず、うさぎがあまりの出来事に驚き震えている姿を模したスタンプを送る。友人のテンションが下がっていくのを感じる。
それから何通かやりとりして、結局今日の約束はナシになった。たぶん速度違反だけであればここまでにはならないので、そこに至るまでに友人には何かしらメンタルブレイクすることがあったんだと思う。たぶん。
テンション下がったなら仕方ないし、誰も悪くないんだけど、なんとなくもやもやしてしまったので1人でラーメンを食べに行った。ありがたいことに17時までランチ営業していたので、唐揚げと白米とラーメンのセットを頼んだ。食べ終わって、やっぱりなんとなくもやもやしてしまったのでマックに行った。チーズバーガーとポテトLとアイスティーSを食べる。
それから映画を見に行った。コンビニで買ったマイクポップコーンを持って、劇場でコーラのMサイズを買って。
帰り道、家にいる母へのお土産としてローソンでカフェラテとカフェモカを買った。母がカフェモカをとったので、カフェラテを飲んだ。
ちょっとだけスッキリしている。
なお、腹は痛い。
きょうは会社休みます
会社を休んだ。
休んだったら休んだ。
理由は『好きな人からのLINEの返信がないから』である。そういうことだから仕方ない。
会社を休むためには会社への言い訳と、家族への言い訳がそれぞれ必要である。会社には適当になんとでも言えるけれど、家族への言い訳が厄介で、あまり仮病を使いすぎると大きい病院での精密検査を要請されるので、今日はもう会社へ行くとうそぶいて自転車で家を出た。
まず向かったのは近所のファミリーレストランである。今日の出勤時間は11時から20時。ここでランチを食べて、14時頃に近くのカラオケに移動。フリータイムで20時まで一人カラオケという隙のない予定を立てた。
そしたら、雨降ってきた。
ファミレスで隣の席に座ったずっと独り言を言っているおじいさんが『すごい雨だ』と言っていて気づいた。ざんざかざんざか降っているらしい。たぶん、自転車を運転できる天候じゃない。
しかも座った席からは外の様子がわからなかった。ドリンクバーに立っても窓が近くにない。
もう20時までここに居座るかとも思ったが、ずっと独り言を言っているおじいさんが『席が狭い』『こんなところにいられない』『店員さん、どこかで俺と会ったことないか?』などとなかなかのボリュームで永遠に話していて数十分でノイローゼになりそうだったので諦めた。
一か八かでお会計をして外に出ると、案の定大雨で呆然とした。自転車に乗るとかいう頓着じゃない。歩きでも傘がないと出られないレベルだった。
さあどうするか、と思いながら、ファミレスに戻ることもできず、その隣にあるファストフード店へ駆け込む。雨が収まるのを待った。この時点でお腹はパンパンである。
しばらくすると雨が緩やかになって、道路を行き交う車たちもワイパーを動かさなくなった。
今だ!と思って、おかわり自由のカフェオレを1杯もおかわりすることなく外へ出る。
幸いにも自転車に乗れる程度だったので、ぐしょぐしょに濡れたサドルを手で拭って自転車にまたがった。今のうちに、カラオケ店へ到着すれば『勝ち』だ。
雨は強くなることなく、無事にカラオケ店へ着いた。
定休日だった。
もちろん、LINEもまだ、返らない。
テーマパークではハッピーバースデーの価値が下落する
ファミリーレストランで夕食をとっていると、たまに子どもの誕生会を催している家族連れを見かける。
店内のBGMがハッピーバースデー仕様のものに変り、店員さんが2名ほど該当のテーブルへ赴いてみんなでハッピーバースデートゥーユーを唄う。周囲にいる私たちも場合によっては手拍子や拍手をしてその場を盛り上げることがある。
その瞬間だけ、そのファミリーレストラン全体がなんとなく祝福ムードに包まれる。
ちょっといいレストランでもそういった現場に出くわすことがある。これはファミリーレストランのものよりもう少し、店全体の雰囲気が親しげになる。現場に居合わせただけの見知らぬ人の『おめでとう!』という言葉が飛び交うことすらあった。だいたいの人が該当のテーブルを見て笑顔で拍手をしている。幸せな祝福ムードである。
『誕生日』というイベントは、その他のイベントに較べて他人も気軽に祝いやすく、当人にとっては重要度の高い、コスパのよいイベントだ。
ところで先日、友人と千葉県にある夢の国へ2日連続で行く機会があった。
1日目はシーで過ごし、2日目にランドへ……というスケジュールで、それ自体はとても楽しくてよかった。
1日目の夜、私たちは園内のホテルにあるレストランで夕食をとった。その日は日曜日だったこともあり、レストランは大変混みあっていた。
友人とご飯を食べていると、レストランの店員さんが二名隣のテーブルに近づき、おもむろに誕生日のお祝いが始まった。
ハッピーバースデートゥーユー
ハッピーバースデートゥーユー
いつものくせで手拍子でもした方がいいのかと考えた瞬間、周囲の様子がいつもと違うことに気づく。
誰もその席に注目していないのだ。ハッピーバースデーは該当のテーブルでのみ祝われて、その他のテーブルには伝染していない。
夢の国なのに?なぜ? そう考える間もなく理由に気づいた。
ひとつのテーブルでハッピーバースデーが終わると、すぐに別のテーブルでハッピーバースデーが始まった。ほぼ同時多発ハッピーバースデーだった。
確かに考えてもみれば、誕生日をテーマパークで過ごそうとする家族、カップル、友人の集まりは多いだろう。その他のファミレスやレストランではだいたいが1組か2組であることを考えると、テーマパークのレストランは局地的にハッピーバースデーが集まっている。
その結果、当の本人たち以外、ハッピーバースデーの価値が急速に下落するのだ。
私たちは美味しいねとご飯を食べながら、次から次へと巻き起こるハッピーバースデーを眺めていた。そうして5組ほどが過ぎると、ハッピーバースデーが日常に溶けてゆく。
「こっちの方が周りに気を使わなくていいかもね」
とは友達の言葉であるが、つまりそういうことなので、ハッピーバースデーの価値が下落するテーマパークで誕生日を過ごすことは正解なのである。
君はおしっこをするとき、尻の割れ目の始まりを撫ぜないのか
勤めている会社のよいところを28ほど挙げるとなれば、私は8つめぐらいにトイレに冷暖房が完備されていることを挙げる。
どういうことかと説明すると、トイレに冷暖房が完備されている、という以外に言うことがないのだが、つまりトイレの中も夏は涼しく冬は暖かい。
暑い寒いに左右されることなく、快適にトイレタイムを過ごすことができる。
ところで私が勤めている会社は、昼休憩1時間の他に15分の休憩が2回ある。休憩室でお菓子を食べながら談笑したり、喫煙所へ行ったりと過ごし方は様々だが、私はトイレへ直行して個室にきっかり15分籠城する。
人付き合いが苦手なわけではない。ただ、せっかくの休憩時間くらいはひとりで好きなことをして過ごしたい。鼻くそもほじりたい。そもそもトイレだってしたい。
休憩室でひとりで過ごすことも検討しないではないが、ひとりでいるときに声をかけられて「ひとりで過ごしたいので……」と心を打ち明ける強さはまだない。あと鼻くそもほじれない。
つまりたった15分ではあるけれど、トイレに閉じこもるし、そのトイレに冷暖房が完備されているというのは大変ありがたいことなのである。(なお弊社はトイレがたくさんあるので特に迷惑にはならない)
さてそんなトイレでの15分の過ごし方だが、まずトイレに入る。そうしていつも通り用を足す。そのままスマホにかぶりついて、ここから休憩時間15分のうち、3分が残るくらいまではノンストップ。
そんなわざわざ1人になって何をしているのか?と聞かれれば、特に何もしていない。ただ、個室の中に1人きりになって15分。この時間は私にとって何ものにも変え難いくらい重要だ。
それこそ、笑顔でデスクに戻るために。
そうして休憩終了3分前。
そろそろ戻るか、と思いつつ、人間の身体とは不思議なもので、このくらいになると僅かばかりの尿意を感じる。残尿感、というのか、『あ、まだ雀の涙ほどはおしっこが出るな』という感覚である。
この残尿感というのはなかなか厄介で、普通のおしっこのように出そうと思って出てきてくれるものでもないし、うんこのように『フン!』と気張っても出てきてくれない。
『この尿を出すためにはさらに尿が必要です』という展開。だからといって尿というのはそう簡単に今すぐ追加するわけにもいかない。
出ないのであればそのまま戻ればいいと思う方もいるかもしれないが、残尿感のままで仕事をすることほど不快なこともない。
休憩時間終了まではあと3分だ。
こんなときどうするか。私には解決策がある。
冒頭にも書いた通り、"尻の割れ目の始まりを撫ぜる"のだ。
もう一度言う。
"尻の割れ目の始まりを撫ぜる"のだ。
尻の割れ目の始まり、とは、背中から腰、その下に尻が現れると思うが、そうやって上から順に見て行ったときの尻の割れ目の始まりである。
その辺を、人差し指でちょちょっと撫ぜる。
すると私の場合は尿意が刺激されて、残っていた僅かばかりの尿がチョロチョロと零れ落ちる。
尻の割れ目の始まりを撫ぜるだけで一瞬にして不快感が取り去られる。これは紛れもない快感である。
ほう。
私は恍惚の表情を浮かべる。休憩時間は残り2分。私の残尿感はゼロ。
そうして私は暖まった便座から立ち上がる。冷暖房が完備されたトイレ内はちょうど良い室温ではあるが、腿の裏に空気が当たって一瞬身震いする。前傾姿勢で固まっていた体をほぐすように上に伸び上がり、個室から出る。
きちんと手を洗って乾かし、意気揚々とデスクに戻る。
私が尻の割れ目の始まりをちょちょっと撫ぜていたことなど、誰も気づかない。