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いい匂い

君はおしっこをするとき、尻の割れ目の始まりを撫ぜないのか

 

勤めている会社のよいところを28ほど挙げるとなれば、私は8つめぐらいにトイレに冷暖房が完備されていることを挙げる。

どういうことかと説明すると、トイレに冷暖房が完備されている、という以外に言うことがないのだが、つまりトイレの中も夏は涼しく冬は暖かい。

暑い寒いに左右されることなく、快適にトイレタイムを過ごすことができる。

 

ところで私が勤めている会社は、昼休憩1時間の他に15分の休憩が2回ある。休憩室でお菓子を食べながら談笑したり、喫煙所へ行ったりと過ごし方は様々だが、私はトイレへ直行して個室にきっかり15分籠城する。

人付き合いが苦手なわけではない。ただ、せっかくの休憩時間くらいはひとりで好きなことをして過ごしたい。鼻くそもほじりたい。そもそもトイレだってしたい。

休憩室でひとりで過ごすことも検討しないではないが、ひとりでいるときに声をかけられて「ひとりで過ごしたいので……」と心を打ち明ける強さはまだない。あと鼻くそもほじれない。

つまりたった15分ではあるけれど、トイレに閉じこもるし、そのトイレに冷暖房が完備されているというのは大変ありがたいことなのである。(なお弊社はトイレがたくさんあるので特に迷惑にはならない)

 

さてそんなトイレでの15分の過ごし方だが、まずトイレに入る。そうしていつも通り用を足す。そのままスマホにかぶりついて、ここから休憩時間15分のうち、3分が残るくらいまではノンストップ。

そんなわざわざ1人になって何をしているのか?と聞かれれば、特に何もしていない。ただ、個室の中に1人きりになって15分。この時間は私にとって何ものにも変え難いくらい重要だ。

それこそ、笑顔でデスクに戻るために。

 

そうして休憩終了3分前。

そろそろ戻るか、と思いつつ、人間の身体とは不思議なもので、このくらいになると僅かばかりの尿意を感じる。残尿感、というのか、『あ、まだ雀の涙ほどはおしっこが出るな』という感覚である。

この残尿感というのはなかなか厄介で、普通のおしっこのように出そうと思って出てきてくれるものでもないし、うんこのように『フン!』と気張っても出てきてくれない。

『この尿を出すためにはさらに尿が必要です』という展開。だからといって尿というのはそう簡単に今すぐ追加するわけにもいかない。

出ないのであればそのまま戻ればいいと思う方もいるかもしれないが、残尿感のままで仕事をすることほど不快なこともない。

 

休憩時間終了まではあと3分だ。

こんなときどうするか。私には解決策がある。

冒頭にも書いた通り、"尻の割れ目の始まりを撫ぜる"のだ。

 

もう一度言う。

 

"尻の割れ目の始まりを撫ぜる"のだ。

 

 

尻の割れ目の始まり、とは、背中から腰、その下に尻が現れると思うが、そうやって上から順に見て行ったときの尻の割れ目の始まりである。

その辺を、人差し指でちょちょっと撫ぜる。

すると私の場合は尿意が刺激されて、残っていた僅かばかりの尿がチョロチョロと零れ落ちる。

尻の割れ目の始まりを撫ぜるだけで一瞬にして不快感が取り去られる。これは紛れもない快感である。

 

ほう。

私は恍惚の表情を浮かべる。休憩時間は残り2分。私の残尿感はゼロ。

 

そうして私は暖まった便座から立ち上がる。冷暖房が完備されたトイレ内はちょうど良い室温ではあるが、腿の裏に空気が当たって一瞬身震いする。前傾姿勢で固まっていた体をほぐすように上に伸び上がり、個室から出る。

きちんと手を洗って乾かし、意気揚々とデスクに戻る。

 

私が尻の割れ目の始まりをちょちょっと撫ぜていたことなど、誰も気づかない。